備中神楽が行われるのは荒神祭り、宮祭り、株祭りなどであり、 神職の行う行事と神楽太夫の行う行事が並走して行われる。 備中神楽の行事は、祭りそのものの行事をあらわしているといえる。 |
前準備 | |||
1 | 大当番、相当番、三当番を決める。相当番、三当番は、大当番の補佐役。 | ||
2 | 斎燈木出し | 斎燈木の切り出し。斎燈木は、燈明の燃料のこと。祭りの一月前。 斎燈木が無くては、寒さ厳しい深夜の神楽見学は、できません。 |
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3 | 当番清め | 大当番の神床を清め、祭具を整える。祭りの2~3日前。 | |
4 | 神殿掛け | 神事や神楽の舞台となる神殿(こうどの)を仮設する。本来、神殿は、荒神社の境内ではなく、当番の家に近い田畑に建てられた。 | |
5 | 湯祓い (ゆばらい) 湯立て神事 |
釜で清潔な湯を沸かして、お祓いを唱えたあと、湯につけた笹を持って、神床から家の中を清める。神楽執行のはじめに当たって、もろもろのけがれを祓い清めるものである。この神事が祭りの最後に行われる場合は、供米による吉凶占いの意味を持つ。 | |
6 | 神迎え | 神職と大当番は、荒神社に行き、荒神を大当番宅の神床にお迎えする。 | |
当番行事 | |||
7 | 当番祭 (当番舞) |
当番の神床の前で、当番安全の祈願と願神楽を行う。祭りの当日。 | |
8 | 神殿移り (宮上り) |
大当番宅から神霊を神殿へ移す。 | |
神殿神事 (神事舞) | |||
9 | 修祓 | 神職が天津祝詞を奉し、全員を清める。 | |
10 | 役指し舞 (やくざしまい) |
神祭や神楽の役配を指名する一人舞。配役を書いた紙を幣串にはさみ左手に、右手に扇子を持ち、太鼓の「サンヤー」のはやし言葉で舞う。現在は、神楽執行の配役のみ指示する場合が多い為、榊(さかき)舞の後で行われる場合がある。 | |
11 | 茣蓙舞 (ござまい) |
神殿へ敷く茣蓙(ござ)を持ち、舞った後に、茣蓙を両手で持って数回飛ぶ。茣蓙を五方に清める神事であり、この茣蓙に神職が座して祝辞奏上します。 | |
12 | 榊(さかき)舞 |
全員を清める一人舞。左手に扇子、右手に鈴を持ち「鈴の舞」、特別な御幣(綾笠)を左手の扇子に添えて持ち「綾笠の舞」、綾笠を襟首に差し、左手の扇子に榊葉を添えて「榊の舞」の三段からなる。 | |
13 | 白蓋神事 (びゃっかい) |
神霊のご降臨を願う。神殿中央へ吊り上げた白蓋を揺り動かし、神殿への動座を促し、千道(ちみち)を白蓋から多くの御幣に引いて鎮座を願う。 | |
14 | 太祝詞、奉幣行事、玉串奉奠、頂盃と続く。 | ||
15 | 導き舞 |
猿田彦命(さるだひこのみこと)の由来を説明する舞で、以後の神楽舞の基本となる「曲舞(きょくまい)」の典型で舞う。 | |
16 | 猿田彦命の舞 |
悪霊を切り伏せる。荒舞の型。 | |
神能 (神代神楽) | |||
17 | 天岩戸開き |
天の岩屋戸に隠れた天照大神(あまてらすおおみかみ)を再びこの世に連れ出す「古事記」神話を能に仕立てた。 | |
18 | 国譲り |
天照大神の「大和の国」と大国主命の「出雲の国」との国盗り物語。「日本書紀」の神話を能に仕立てた。 | |
19 | 大蛇退治 (八重垣の能) |
素戔嗚(すさのお)の命の八岐大蛇(やまたのおろち)退治の神話を能に仕立てた。 | |
20 | 吉備津 |
吉備津神社(古代吉備国の総鎮守)の縁起に関する神話劇。吉備津彦命(きびつひこのみこと)の温羅(うら)(鬼)退治が中心。備中神楽のみで演じられる。神代神楽以前の神楽。天岩戸開き、国譲り、大蛇退治の三編より以前に神楽化されたと思われている。 | |
神能 | |||
21 | 大神能 (地神二代) |
天照大神から二代の君天押穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)から三代の君瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の時代にかけて、三柱の使者が大神の勅命により大国主の命に葦原中津国を献上するようにと天下った物語である。 最近では演じられらくなった「国譲り」の前段のお話です。 |
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22 | 五行 |
五行思想(天地万物の全てが、五つの要素からなる)を問答形式で説く。万古大王(ばんごだいおう)と五人の王子と修者堅牢神(しゅうじゃけんろうじん)が登場する。神代神楽以前の神楽。 | |
23 | お多福 | 日向の高千穂の峰に天降った「ににぎの命」が吾田の笠沙の岬で美人の「このはなのさくや姫」に出会い求婚した。父の大山津見神は承諾し、姉の「いわなが姫」(お多福)も副えて命に送った。ところが祝言を終えたところへお多福が現れ、二人の間に入って、散々邪魔をする。邪魔者扱いされた「お多福は怒って「般若」となってあばれるが、「猿田彦」によって退治される。現在演じられる機会が少ない。 | |
24 | 三韓 | 姫姿の神功皇后が後住吉明神のお告げで「西に当たる宝の国を征夷に行く」旨を述べて、富岩窓、櫛岩窓、武内、物部の四名を呼んで軍略を問う。 竜宮界から千珠万珠の玉を借りて、軍馬に皇后が乗り、馬方が歌いながら舞台を回る。やがて、異国の地に着く。 千珠の玉は、武内に。万珠の玉は、物部に捧げた。「戦が激しくなる時には、海中に投げ入れて海を干し。海を煮立たせよ。」 富岩窓、櫛岩窓の二人には、弓矢を授けて先陣を命じた。 続いて、万里の長城を作ると言って、壁を塗っている処で、鬼を待ち伏せして首を取る。二人で担いで帰ろうとするとき、皇子誕生の声があり、二人の舞い上げで幕となる。観客をわかせる余興である。現在演じられる機会が少ない。 |
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25 | 玉藻前 たまものまえ |
皇室に伝わる三種の神器を奪おうと、唐土から来た老狐が女子に化け、近衛天皇の妃(玉藻前)となる。帝は原因不明の病気となるが、伊勢国に住む易の名手、安部の泰近、泰重兄弟により野狐の祟りと判明。玉藻前に疑いがかけられる。数々の尋問にも正体を現さないが、三種の神器の一つの鏡で照らされると、ついに金毛九尾白面の老狐の姿を現す。それを2人の猟師が退治する。謡曲「玉藻前」を神楽化したものである。 | |
26 | お田植 |
月読(つきよみ)の命は、天照大神の神勅を伝えて五穀の種を求める。保食神(うけもちの神)が口から種々の物種を生んで大御神に挙げようとするので、月読の命が立腹して保食神を切りつける。そこに、天熊人(あまのくまびと)が2人の仲裁に入り、保食神を豊受大神宮に勧請し、天照大神へ五穀の種を奉る。後半は、田男による田作り、早乙女の田植え歌が滑稽に演じられる。農作の予祝行事の一つといちづけられる。 大蛇退治の一場面に一部挿入される。 |
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神殿神事 (神事舞) | |||
27 | 剣舞(けんまい) | 四人の神楽師が刀を使い曲芸風の舞を舞う。東西南北と中央を清める神事。 | |
28 | 託宣神事 (たくせん) |
神がかった舞手が、吉凶月、五穀の豊凶、氏子の禍福などについて託宣を下す。「布舞」、「綱舞」のいずれかの神事舞を行う。「布舞」は、榊舞に似た舞の後、一反の白木綿を振りまわす一人舞。「綱舞」は、蛇舞、荒舞ともいい、わらで作った大蛇(荒神の使い)を神殿に宙吊りにして、揺り動かしまとわりついて舞う二人舞。 | |
29 | 石割神事 | 石割荒神の場合行なう。神がかった舞手が、斎燈で焼いた石を手刀で割る。焼畑開墾作業を伝えるものか。荒神の御魂分けか。 | |
30 | 願能 | 猿田彦命による舞い納めを行う。 | |
31 | 総神楽 | 神職による祈祷。福の種等を荒神に報告する。 | |
荒神送り・当番開き | |||
32 | 荒神送り | 神職、大当番と当番組が、荒神社に参り、祭具を納め、荒神の荒ぶる神格を封じ込める。 | |
33 | 当番開き | 神殿を解体し、当番組の直会(酒席)の後、荒神式年祭が終了する。 | |
追記 | |||
宮神楽、株神楽などでは、榊舞、導き舞、猿田彦命の舞、国譲り、大蛇退治が披露される。 演出を狙って、国譲り、大蛇退治の順番にて披露される場合が多い。出雲神話によれば、大蛇退治、国譲りの順番が正しいのであるが、氏子が楽しみにしている福の種を祭り中程に行い、大掛かりな演出の大蛇退治を後半に置くことにより、氏子を喜ばせる効果を狙ったものである。 |